コーヒー好きの方なら「抽出」と書いて「ちゅうしゅつ」と読むのが当たり前と思われますが、昔は「抽出」と書いて「ひきだし」と読んでいたそうです。
タンスや机の「引き出し」を「抽出(ひきだし)」と書いていたんですね。つまり、抽出とはタンスや机の引き出しの中から欲しいものだけを取り出すということです。
さて、「コーヒーの抽出ってそもそも何?」ということですが、コーヒー豆の中には、おいしい成分とおいしくない成分があります。
たとえば、甘味、旨味、香ばしさ、フルーティーな酸味などがおいしい成分で苦味、エグミ、渋み、酸っぱい酸味などがおいしくない成分です。
この中から「おいしいエキスだけを取り出す」ことが、コーヒーの抽出と言えます。抽出の考え方は「日本料理の出汁の取り方」に似ています。
かつおや昆布の出汁は、目的のうまみ成分が水の方へ溶け出したら、あとの余分なえぐみや渋みが汁に移らないうちに取り出します。だし汁にうま味成分だけを移行させ、その他のいらない成分が溶け出すのを防ぐ。
つまり、 素材の成分を全て出し切らないうちに捨てるというある意味贅沢なやり方、それが日本料理の出汁の取り方です。
コーヒーも同じで良い成分だけをさっと取り出したら、残りの不良な成分はコーヒーかすと一緒に取り除く。すると出汁と同じようにもコーヒーもきれいに澄んだ液体になります。不良成分が入れば濃度が薄くても濁ります。
よく出来た時に「澄みました」と言い、失敗した時に「すみ(澄み)ません」と誤る。日本料理もコーヒーも同じですね。
しかし、これとは逆の考え方の抽出法もあります。 コーヒーの粉をお湯に浸す「プレス式」と呼ばれるものです。
欧米でよく使われているフレンチプレスというコーヒー抽出器具はコーヒーの成分を丸ごと頂こう、という器具なのです。これはかつおぶしや昆布を鍋に入れたまま沸騰させるのと同じで、出したくない成分もたくさん混入します。
先ほどの話でいけばプレス式は「すみません」のコーヒーになり、これは「抽出」とは呼びません。おいしいコーヒーは料亭の汁物のように、すっと体に浸透して余韻だけが静かに残る。抽出の技術によってそんな料亭クラスのコーヒーも可能になるのです。
つまり、コーヒーの抽出とは「旨味だけを取り出したら、後はドリッパーの中に閉じ込めて取り除く」ということです。
コーヒーの抽出理論を理解すると、抽出をコントロールすることができるようになります。
コメントをお書きください